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タイ発バンコクな毎日:スペースアルク
 
バンコク在住の増成ヒトミさんがタイの事情や日々の生活についてつづるエッセーです。
エッセーへのご意見・ご感想をお待ちしております。

2010年03月01日

第450話:狂犬病とウィークエンドマーケット

 先週のある日。しばらくぶりにスクンビット通りに住む日本人の友人を訪ねた。
 彼女はタイ語学校(第4話)時代からの友人で、お互いにタイに10年以上住んでいるせいか、いろいろな話題を共有できるのがうれしい。

 彼女にお茶を入れてもらい、リビングルームのソファに座って話しているうちに、彼女の左手のある指にばんそうこうが巻いてあるのに気がついた。しかも添え木のようなものまで一緒に巻いてある。ワタシがそのことをたずねる前に、彼女は自分から、「ちょっと聞いてくださいよ~」と事の経緯を話し始めた。聞くと、知り合いの飼い犬に噛まれたという。頭をなでようとしたところ、突然差し出された手にこわがった犬がガブッとやったらしい。噛まれた跡からは出血して、傷口がふさがった後も指を曲げると痛みがあるので、骨にひびが入ったのかと不安になって病院に行ったのだが、骨に異常はなく、どうやら腱を痛めたらしいので添え木をしているとのことだった。

 犬に噛まれて出血したとなれば、ここタイではもうひとつ心配しなければいけないことがある。それは狂犬病(第283話)である。それを彼女に言うと、飼い主がその犬を飼って数年になり、狂犬病の予防注射は毎年欠かさずにしていたので心配ないという。

 つい最近、こんなニュースが世間を騒がせた。

 ウィークエンドマーケット(チャトゥチャックマーケットとも)でペットショップを営んでいた女性が、飼い犬の3歳のロットワイラーに噛まれた。昨年の12月のことだ。そのロットワイラーはどうやら繁殖に使われていたらしく、女性の家にはロットワイラーの子犬が7匹いた。しばらくして親犬が死に、続いて子犬7匹が順に死んでいった。ほかにもプードルが1匹いたのだが、それも死んでいった。そして噛まれた女性に症状が出始めたのが2月11日。呼吸がしづらくなったので病院に行き、投薬を受けた。しかし症状は良くならず、頭や体の節々が痛むのでストレスが原因ではないかと思い、精神科に行って精神安定剤の投薬を受けた。13日にはウィルスに感染したような症状が出始めたため、病院に行って痰(たん)を採取して検査を行うことになった。そして翌14日には水をこわがるようになり(第283話)、午後には死亡したという。その後、痰(たん)の検査結果で女性は狂犬病だったことがわかった。

 女性が犬に噛まれたとき、ほかにも女性の夫、ミャンマー人の従業員が噛まれたが、誰も医者にはかからなかったという。それはなぜか。女性は狂犬病予防ワクチンを自分で購入して、犬に注射していたからである。

 狂犬病予防ワクチンを注射していた犬が、なぜ狂犬病にかかったのか。
 タイ字新聞の記事には、ワクチンの保管が万全でないと効果がない、皮下注射ではなく筋肉に注射しないと十分な効果がない、そして驚くことに偽のワクチンが近隣諸国から輸入されているとあった。女性がワクチンを自分で犬に注射していたのは、費用を節約したかったからなのか、大型犬のロットワイラーを病院に連れて行くのが面倒だったからか、その辺は判然としないが、せっかく注射していたワクチンの効果がなかったことは確かなようだ。

hitomi_450.jpg

 ペットショップというと、店の中にケージがいくつもあり、その中に犬や猫がいるような印象を受けるが、ウィークエンドマーケットのペットショップの中にはそういう店もあるのだが、数的に多いのはエアコンがなく、低い囲いのついた台の上に犬種を問わず子犬を詰め込んでいる店である(第233話)。客は子犬を触りたい放題だし、犬同士もじゃれて遊ぶことができる。

 ペット販売業者が狂犬病にかかって死亡したという事実に関係者は驚がくし、先々週末からウィークエンドマーケットでは犬への狂犬病予防注射を無料で始めた。また、女性の店から犬を買った客の情報を調査しようとしたらしいが、エアコンなしの店は純血種の犬であっても自家繁殖のためか血統書がなく、子犬と引き換えに現金を受け取ればそれでおしまいなので、客のデータなどは残していなかったようだ。

 この件を受けて、バンコク都、厚生省疾病予防局、農業協同組合省畜産局が対策会議を開き、明日2日から都内の野良犬・飼い犬に狂犬病予防注射と避妊手術を開始することにしたそうだ。野良犬の場合は捕獲して、プラヴェート地区にある野良犬保護センターに送られるのだとか。しかし、この記事で挙げられていたバンコク都内の野良犬の数は80万頭となっていた。ちなみに日本の都道府県別の犬の登録頭数(平成20年度)と比較すると、登録頭数が最多の東京都でさえ47.2万頭なのだから、バンコクの野良犬がいかに多いかおわかりいただけるだろうと思う。

 果たして、80万頭すべてに狂犬病予防注射をすることはできるのか。
 マイクロチップ(第346話)のときもそうだったが、最初はやる気満々でも、そのモチベーションが維持されないという現実をワタシは何度も目の当たりにしているので、今回のその二の舞ではないかなあとひそかに思っているのである。